α9 IIIの全速同調を使いこなす方法

はじめに

どこに行ってしまったのでしょう。

α9 IIIへの賞賛の嵐は。

発表直後は、ゲームチェンジャーだの異次元だの最強だの革新的だのモンスターだの未来のカメラと褒め称えられていたのですが。

画質も高感度特性もマイクロ4/3並みだと知れ渡ったせいなのでしょうか、ネット界隈もすっかり静かになってしまいました。

それはともかく、α9 IIIの1/80000秒までの全速同調は夢の様な機能ですので、どうしても使いこなしてみたくなるのが人情です。

という訳で、いざという時のために事前に使い方を考えておきたいと思います。

発光タイミング調整機能

当初は他社製のストロボでは、全速同調は使えないのかと思っていたのですが、α9 IIIの宣伝動画に以下の様なシーンがありました。

これをご覧頂きます様に、どうやらα9 IIIはストロボが発光するタイミング、すなわちシャッターボタンを押してからストロボが発光するまでの時間をユーザーが調整できる様にしている様です。

フル発光の場合

そこまで分かれば十分なのですが、折角なのでストロボの閃光カーブを描いてこれをもう少し詳しく説明したいと思います。

大型ストロボの閃光カーブ

上の図はGN60クラスの大型クリップオンストロボの閃光カーブで、フル発光時の発光時間(ピーク強度の50%の時間)を取り敢えず0.001秒(1/1000秒)だとしています。

メカシャッターにおけるシンクロ同調速度は、だいたい1/250秒(0.004秒)ですので、ストロボの発光時間(0.001秒)は、多少のバラツキがあってもこの中(黄色のエリア)に楽に入ります。

ところが例えばシャッタスピードが1/10000秒となると、逆にストロボの発光時間の中にシャッター開時間(ピンクのエリア)が入るので、極力多くの光を取り込むにはストロボの発光強度のピークとシャッターの開いてる時がドンピシャで合わなければなりません。

そしてもう一つお伝えしなければならないのは、シャッター動作の前に、ストロボの発光を開始しておかなければならない事です。

このため、α9 IIIには個々のストロボに合わせて発光タイミングを調整する機能が設けられたのでしょう。

またシャッタスピードが1/10000秒だと、ストロボの光を取り込める量は、当然ながら非常に少なくなります。

この図の面積を基にして大雑把に算出すると、1/10000秒にするとガイドナンバーはGN60から1/√8程度のGN21程度に低下する事になります。

ソニーの全速同調のサンプル画像が、かなり暗いときに撮られたのは、恐らくこれが理由なのでしょう。

これで概ね全速同調の使い方が分かったのですが、残念ながら話はまだ続きます。

微小発光の場合

と言いますのは、今まではストロボをフル発光したときの事を考えていました。

ですが常にフル発光ばかりしていたら、チャージに時間は掛かるし、電池は消耗するし、発光面は熱くなるしと、問題だらけです。

そうなると、ストロボの光量を絞った場合も考えなければなりません。

その場合の図が以下になります。

ご覧の通り、発光強度のピークはフル発光時と変わってくるのです。

このため、もしストロボの光量を調整したら、その度にストロボの発光タイミングも調整しなければなりません。

できれば自動調光のプレ発光時に、この発光タイミングも自動設定してくれれば良いののですが、まだまだ先の事でしょう。

ちなみに上の様な光量を絞った閃光カーブの場合、ガイドナンバーはGN17程度なのですが、1/10000秒で撮るとGN9程度にまで低下します。

おまけにこの図をご覧頂きます様に、依然ストロボの光量の半分以上を無駄にしています。

小型ストロボの優位性

これを防ぐためには、極力発光時間の短いストロボが必要になるという訳です。

そのためには、放電管が細くて短い小型のストロボが断然有利になります。

例えばコンパクトカメラに搭載されている様な超小型のストロボのガイドナンバーは、GN5程度でありながら発光時間は数万分の1秒程度ですので、結局高速のシャッターを使う場合、大型ストロボと同等になるという訳です。

高速シャッタースピードに於けるガイドナンバーの検証

さて今までは、散々推測でお話ししてきましたが、これからはこれがどこまで当たっているか検証したいと思います。

どうやってやるかと言いますと、実はα9 IIIで全速同調する専用ストロボ(HVL-F60RM2)の高速シャッタースピードでのGNが既に公表されているからです。

これを見ると1/10000秒でGN17程度で、こちらが算出したGN21とまずまず近い値になります。

高速シャッタースピードに於ける発光効率に関する検証

続いては発光効率です。

下は同じく全速同調に対応したソニーの中型ストロボ(HVL-F46RM)の全速同調時のガイドナンバーです。

これを見ると、元がGN46だったのに対して1/10000秒でGN12と、ガイドナンバーが26%に低下しています。

一方先ほどの大型ストロボのHVL-F60RM2は、GN60からGN15とガイドナンバーが25%低下しています。

という訳で、小型のストロボほど発光時間が短くなり、ガイドナンバーの低下率は小さくなるという当方の推論は外れた様です。

と言いたい所なのですが、この理由は両機の発光時間がそれぞれ2.8msと1.7msと、かなり長いためその差が出なかったのでしょう。

これがもし発光時間が1ms以下のもっと小型のストロボであれば、差が出ると確信するのでありました。

そんな訳で、両機の発光量を1/32程度に絞った場合のGNを知りたい所です。

まとめ

という訳でまとめです。

1)α9 IIIは、発光タイミングを調整する事で、他社製のストロボでも全速同調が可能になりそうである。

2)ただしその場合、大幅にガイドナンバーが低下する。

3)また光量を変える度に発光タイミングを調整する必要がある。

4)このため、1/1000秒以上の高速シャッタースピードでストロボを同調させる場合は、むしろ発光時間の短い小型のストロボを使った方が発光効率が良い。

と思うのでありました。

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