キヤノン機の動画サーボAFの問題点とDIGICアクセラレータへの期待

はじめに

今回は、キヤノンから今後リリースされるであろうEOS R6 Mark IIIについてお話したいと思っていたのですが、その前にどうしてもこの話をしておかなければ話が成り立たない事に気付き、敢えてお伝えしたいと思います。

それがどんな内容かと言いますと、EOS R8の動画サーボAFの問題点です。

ご存知の様にEOS R8は、キヤノンの中では廉価版に当たるフルサイズ機なのですが、現時点においてはキヤノンの中では最新機種です。

また世代的にはEOS R3EOS R6 Mark IIと同じミラーレスカメラの第三世代に当たりますので、動画サーボAFの性能については、キヤノンの最先端の技術が投入されていると見て間違いないでしょう。

ところがこの動画サーボAFには、依然困った欠点があるのです。

こんな話は積極的にしない方が良いのは分かっているのですが、後半に良い話がありますので期待しておいて頂ければと思います。

EOS R8のの動画サーボAFの問題点

先ずこちらが、回転するマネキンをEOS R8で撮っている動画です。

 

以前EOS R6でも同じ試験を行ったのですが、EOS R6の人物検出では横顔や後姿はかなり苦手でした。

このためEOS R8ではかなり改善されただろうと期待したのですが、残念ながら殆ど変わりません。

ついでに言っておきますと、逆光時や露出オーバー気味になると更にこの現象が顕著になります。

もしかしたら実際の撮影ではもっとマシではないかと思われるかもしれませんが、上半身でも全身でも、人物を取りながら背面に回り込むと(人物を検知しなくなり)ピントが背景に飛んでしまう事が頻繁にあります。

人物の後ろ姿については、恐らく他社機でもそれなりに難しい所があるのでしょうが、少なくともAIプロセッシングユニットを搭載した最新のソニー機でしたら、キヤノン機より優れているのは間違いないでしょう。

 

回避策

とは言え、悪い話ばかりではマズイので、念のためにこの回避策をご紹介しておきます。

先ず一つ目は、トラッキング機能を使う事です。

モニター画面上で人物をタッチする、もしくはトラッキング開始ボタンを押すと、それまでのAF枠が二重線に変わります。

こうすると被写体検出ではなく、枠で囲んだ物体を追い続けるトラッキングが開始されますので、人物を見失う確率は減るのですが、ご覧の通りで完璧とまでは言えません。

そしてもう一つの手が、EOS R3から新たに追加された動画サーボAFの検出限定機能です。

これを使った場合、もし被写体を検出できなくなると、その時点でAF動作を停止しますので、背景にピントが飛ぶ事を防ぐ事ができます。

ただしこれも諸刃の剣で、もし人物を検出できないと、永遠にどこにもピントが合っていない状況が続きます。

その場合マニュアルには記載がありませんが、シャッターボタンを半押しするとピントを合わせてくれます。

いずれにしろこの検出限定機能をEOS R3から追加したという事は、キヤノンも被写体検知が不十分である事を強く認識している事の現れなのでしょう。

サーボAFのスピードが遅い

これだけでもう十分かもしれませんが、ついなのでもう一点動画サーボAFの問題点を挙げておきます。

それはサーボAFのスピードが遅い事です。

論より証拠で、早速それをお見せしましょう。

ご覧の通り被写体に近付いたり、遠ざかったりした際、ピントが追い付かないのです。

この位のスピードで追い付いくのは難しいと思われるかもしれませんが、実はEOS R8で追い付く事は可能なのです。

下は同じくEOS R8における静止画のサーボAFの挙動です。

この場合、しっかり被写体にピントが合っているのが分かって頂けると思います。

何故静止画だと追い付くのに、動画だと追い付かないのでしょう。

そうなると思い当たる事があります。

デュアルピクセルCMOS AFのハンディキャップ

その原因は、恐らくキヤノンが採用しているデュアルピクセルCMOS AFのせいなのでしょう。

このキヤノン独自のAF機能は、その気になれば全画面で測距が可能になり、尚且つ測距センサー埋め込みに伴う画素欠損の発生しない非常に優れたものなのですが、反面その処理はかなり面倒なものがあります。

と言いますのは、通常の像面位相差AFの場合、画像を読み込めばその中にAF情報も含まれているのに対して、デュアルピクセルCMOS AFの場合は、画像情報とAF情報を別々に読み込まなければならないのです。

更にです。

画像情報が2400万画素だとすると、AF情報はその倍の4800万画素を取り込まないといけないのです。

すなわち他社のカメラの2倍以上、面倒な事をしなければならないのです。

特に1秒間に数十フレームを読み込まなければならない動画撮影においては、AF用に十分な時間を割く余裕は無くなってしまいます。

そうなると当然被写体検知が不十分で、且つAFサーボの追随が遅くなるのも納得できます。

DIGIC Acceleratorへの期待

そんな訳で、これらの問題はちょっとやそっとでは解決できないのではないでしょうか。

実際、第三世代のカメラでも、第二世代と殆ど変わらないのですから。

このため、DIGIC Acceleratorなる新機軸を搭載したEOS R1でも簡単ではないと思っていました。

何しろカメラ内でニューラルネットワークツールを使ったノイズリダクションやアップスケーリング処理ができるという事は、所詮DIGIC AcceleratorとはNPU(もしくはGPU)の様な物で、映像エンジンであるDIGIC Xの補佐役程度のものだと思っていたからです。

ところがです。

その考えは、EOS R1のプレゼン動画を見て一変しました。

何気ない宣伝動画に見えますが、これで興味深い事が分かります。

何かと言いますと、撮像素子の情報は先ずこのDIGIC Acceleratorに入っている事です。

これを見る前は、当然ながら撮像素子の情報は先ずDIGIC Xに入り、撮影に関わる全ての処理はDIGIC Xが行い、その補助にDIGIC Acceleratorが使用されると思っていました。

ところがDIGIC Acceleratorに最初に入るという事は、撮影中このDIGIC Acceleratorはほぼ被写体認識とAF処理にのみに使われている可能性が非常に高いという事です。

そして撮影していない時間に余裕があるときに、ノイズリダクションやアップスケーリング処理のNPUとして働いているのでしょう。

結論

もしそうだとしますとDIGIC Acceleratorが搭載されたEOS R1とEOS R5は、大幅に被写体検知とAF機能が大幅に改善され、前述の問題は完全に払拭されている可能性が高い様に思います。

もしそうならば、サッカー選手の食いつきだのシュートのタイミングがどうのとか言う前に、人物の後ろ姿を確実に捉えますと言ってくれれば良いのにと思わないではいられません。

それはともかくとして、果たしてこの予想が当たっているかどうか、今から非常に楽しみです。