MTFの重要性

2021/11/18

お待たせしました。

それではいよいよMTFの話です。

各社の最新50mm F1.2レンズのMTF比較(10本/mm)

MTFがModulation Transfer Functionの略で、この値が大きいほどコントラストと解像度が良いというのは何方も良くご存知の事でしょう。

これについて、ニコンの公式HPに説明が載っていますので、添付しておきます。

MTF(Modulation Transfer Function)は、レンズ性能を評価する指標のひとつで、レンズの結像性能を知るために、被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波数特性として表現したものです。

オーディオの分野では、原音の情報を機器が如何に忠実に再生するかを周波数特性を用いて判断しますが、光学の世界では空間周波数(Spatial frequency)を用います。空間周波数(本/mm)は1mmあたり何本のパターンがあるかを示します。

ここに掲載のMTF曲線は、空間周波数を特定の値(10本/mmと30本/mm)に固定した状態で、横軸に像高(画面中心からの距離mm)をとり、縦軸にコントラストの値(最大値1)を示したものです。各レンズに対応するMTF曲線は、絞り開放の場合に対応し、空間周波数10本/mmに対応する曲線を赤線で、空間周波数30本/mmに対応する曲線を青線で示しています。

軸外像高では非点収差の影響でS方向(サジタル方向:放射方向)とM方向(メリジオナル方向:同心円方向)で、コントラストの変化が異なってきます。一般に、10本/mm の曲線が1に近いほどコントラストがよくヌケの良いレンズになり、30本/mmの数値が高いほど高解像なレンズといえます。

なお、レンズ性能につきましては、ボケの評価や、色にじみ等 、MTFでは判断できない評価項目もあります。従いまして、MTFは性能を評価する尺度のひとつとしてご利用下さい。

MTFの有効性

そこまで知って頂いた上で、下の2枚のチャートを見て頂けますでしょうか。

RF50mm F1.2L USMとRF85mm F1.2L USMの絞り開放時のMTFチャート

これはキヤノンのRF50mm F1.2L USMRF85mm F1.2L USMのMTFチャートなのですが、ご覧頂きます様に異なる焦点距離の大口径単焦点レンズながら、RF85mm F1.2L USMの方が高解像度で高コントラストなのが一目で分かります。


RF50mm F1.2L USM

RF85mm F1.2L USM

恐らくこの2本のレンズを使って撮り比べをすれば、この程度の差なら違いに気付くのではないでしょうか。

ただしそのためには、2本の高価なLレンズを購入しなければなりません。

またその差を認識できたとしても、良否を数値で比べられるMTFと感応評価では、どちらがより優れた評価手法であるかは、言うまでもない事でしょう。

またついでなので、もう一つ興味深い事実をお伝えしましょう。

下は同じくキヤノンにおける普及クラスのRF85mm F2 MACRO IS STMのMTFチャートなのですが、RF85mm F1.2L USMより開放値がF1.8と1.5段も暗いので、MTF値自体は本レンズの方が優れていると思われる事でしょう。


RF85mm F2 MACRO IS STMの絞り開放時のMTFチャート

RF85mm F2 MACRO IS STM

ところがあに図(はか)らんや、絞り開放時であってもMTF値はRF85mm F1.2L USMの方が上なのです。

それを知ってしまうと、無理してRF85mm F1.2L USMに手を出す方もいらっしゃるかもしれません。

こういう予想外の事実が購入前に分かるのは、MTFチャートがあってこその話です。

ついでに、もしかしたらお世話になるかもしれないNIKKOR Z 85mm f/1.8 SのMTF曲線も見ておきましょう。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 Sの絞り開放時のMTF曲線
NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

これを見るとRF85mm F1.2L USMの開放時よりも若干良い感じです。

ニコンに買い換えた暁には、本レンズを買うしかありません。

MTFチャートが無いとどうなるか

ではもしこのMTFチャートがないとしたら、我々一般ユーザーが手持ちレンズの解像度を知るにはどうすれば良いのでしょう。

一昔前でしたら、下の様な解像度チャートを壁にべたべた貼って写真を撮り、現像したフィルムをルーペで覗きながらどのくらいの細線まで分離して見えるかで解像度を判断したものです。

フィルムカメラ時代によく使われた解像度チャート

今時なら撮った画像を液晶モニターに拡大して判断できますが、それでもその手間と感応評価による曖昧さは避けられません。

それ程ユーザーにとって有効なMTFなのですが、どうもこの最近、このMTFを軽視する風潮がある様に思うのですが、いかがでしょうか?

MTFはレンズ性能の指標の一つでしかない?

良く聞くのは、MTFはレンズの性能を評価する尺度の一つにしかすぎないので、それだけでレンズ良し悪しを判断してはいけないと言うものです。

確かにレンズの性能には、(解像度やコントラスト以外に)フレアやらゴーストやら各種収差(球面収差、コマ収差、非点収差、色収差、湾曲収差)、それにボケ味色味等色々あります。

そうなると、確かにMTFだけで見てレンズの良し悪しを判断するのは考え物です。

と言いたい所ですが、そうでもないのです。

実は、上記光学性能の殆どの項目は、MTF値に包含されているのです。

もっと分かり易く言えば、フレアや各種収差が悪くなればMTF値も悪くなり、良くなればMTF値も良くなるのです。

何故ならば、例えばもしフレアの程度が悪ければ画面全体のコントラストが低下しますし、コマ収差があれば周辺部の解像度が低下し、非点収差があれば放射方向と同心円方向の解像度の違が出るからです。

パナソニックの各種収差に関する解説図

また歪曲収差についても同じ事が言えます。

パナソニックの歪曲収差に関する解説図

画像が伸びればコントラストは低下しますし、画像が縮めば解像が低下するので、やはりMTFに影響するのです。

すなわち、MTFはコントラストや解像度を見ていながら、実はそれらが低下する原因となるフレアや収差の程度を見ているとも言えるのです。

ただし、残念ながらボケ味色味はMTFには反映されません。

ですが、果たして写りの悪いレンズ(MTFの悪いレンズ)において、ボケ味や色味にこだわる方はどれだけいらっしゃるのでしょう。

何が言いたいかと言えば、MTF値は(単にレンズの性能の指標の一つではなく)レンズの性能において(他に同列で比べるものがない程)断トツに重要な指標だという事です。

MTFは限られた条件での値でしかない?

またこんな話も聞きます。

MTFは、限られた条件(距離、光源、空間周波数)で測定されているので、現実に即していない。

これもどうなのでしょう。

もしMTFが良いレンズと悪いレンズがあったとして、測定条件を変えた途端にいきなり逆転するなんて事があるのでしょうか?

ゼロとは言えないものの、その可能性は限りなくゼロでしょう。

例えば、今どき30本/mmの空間周波数では足りないという方がいらっしゃいますが、30本/mmでMTFが悪かったレンズが、100本/mmになったら途端にMTFが良くなる事など、有り得ないでしょう。

そんな訳で、これも言いがかりとまでは言わないまでも、かなり的外れな指摘と言わざるを得ません。

そもそも測定条件が限定されていないデータなど、世の中に存在しません。

いずれにしろ、間違いなく言える事は、MTFが良くて悪い事は何もないという事です。

MTFなどで判断せずに、撮った写真で判断すべし?

また中には、MTFなど気にせずにレンズの良し悪しは撮った写真で判断すべき、という意見もありますが、これもどうなのでしょう。

余程のお金持ちならいざ知らず、一般庶民ならば購入したレンズを使って撮ったら、予想以下の性能だったという事態は避けたい所です。

そうなるとどうしても事前に情報を集める事になるのですが、そこで一番客観的で分かり易い指標がMTFだと思うのですがいかがでしょうか。

またMTFが悪くても良いレンズがあると主張される方もいらっしゃる様ですが、そう言うご本人がそんなレンズを本当に普段使って撮影しているのかどうか、是非一度伺ってみたいものです。

MTF曲線はメーカー保証値

そして最後にお伝えしたいのは、MTF曲線が各メーカーから公表されているという事は、そのレンズはMTF曲線で示した光学性能を備えていると、メーカーが宣言(保証)している事になるのです。

もしMTF曲線が開示されていないとしたら、どんなに写りが酷くても、ユーザーは何一つ文句が言えない事になります。

まとめ

それではまとめです。

  1. MTFはレンズのコントラストと解像度の指標であると共に、フレアや各種収差の程度をも包含している。
  2. MTFはレンズの性能を知る上で、最も重要な指標である。
  3. MTFが良くて悪い事は何もない。
  4. レンズ購入に際しては、MTFと価格を徹底的に比較検討すべきである。
  5. MTF曲線は、メーカーの保証値である。

こんな結論で、何とかMTFを軽視する風潮が弱まれば良いのですが。

 

3件のコメント

パナソニックの元レンズメカ設計者(精密メカ設計、光学メカ設計、商品企画、機種リーダー、BtoB開発リーダー、カメラ開発部門リーダーとして33年間従事。受賞歴:日本写真学会技術賞受賞)の方のMTFに対する考え方の動画です。

【カメラ技術解説】本当に性能をあらわせているのか「MTFって、種類があるの?各メーカーで同じ計算なの?」~何が違う?波動光学的MTFと幾何光学的MTF~

https://youtu.be/yr7Ek_a4vGU?t=590

“撮影しないと見えてこない描写性能軸の方が多いです。写真の写りは人それぞれ、好みや目指すものが違いますから、やはり実際の作例などを見て判断することが良いと思います。MTFデータが低くても魅力ある写りをするレンズもたくさんありますし、ここだけを捉えて良い悪いの議論に惑わされないように、ご自身の目で見て感性に判断してもらう方が幸せになると思います。”

この方は動画の最後をこのように締めくくっています。

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