広角レンズはポートレートに不向きの誤解

2022/03/08

はじめに

広角レンズで撮影すると歪(ゆが)みが発生するので、ポートレートには不向きである。

マネキンだから許される歪み写真

今時小学生でも知っていそうな事なのですが、果たしてそれは真実なのでしょうか?

今回はその常識にメスを入れてみたいと思います。

広角/標準/中望遠レンズの歪み比較

それでは先ず、広角レンズを使うとどれくらい画像が歪むのか、1m離れたマネキンを、焦点距離24mm、50mm、85mmのレンズで撮ってみたいと思います。

それが写真が下になります。

距離1mのマネキンを左から焦点距離24mm、50mm、85mmで撮った写真

1mとなるとかなり被写体に近いので、広角レンズならそれなりに歪みが発生していると思われる事でしょう。

そんな訳で、歪みの程度を確認するため、顔の大きさを同じにしたのが以下になります。

距離1mのマネキンを焦点距離24mm(左)、50mm(中)、85mm(右)で撮った写真

これをご覧頂きます様に、どのレンズであっても被写体までの距離が同じであれば、歪みの程度は全く同じなのです。

恐らくこの写真を見ても、未だ疑っている方がいらっしゃる事でしょう。

ですが、フルサイズのカメラをAPS-Cサイズにクロップすると、レンズの焦点距離を1.5倍したのと同じ画像になるのは良くご存知でしょう。

という事は、被写体までの距離が同じなら24mmのレンズで撮った被写体と、24を1.5倍した36mmのレンズで撮った被写体の形状は全く同じになるという事なのです。

すなわち、被写体までの距離が同じであれば、レンズの焦点距離が変わっても被写体の形状は変化しないのです。

歪みが発生する原因

ではなぜ広角レンズで撮ると歪みが起き易いと思われているかと言えば、広角レンズですと被写体が小さく写るので(標準レンズや中望遠レンズより)被写体に近付けるからです。

ちなみに先ほどは1mだったのを、今度は0.5mまでマネキンに近付いて、3本のレンズで撮った写真が以下になります。

距離0.5mのマネキンを焦点距離24mm(左)、50mm(中)、85mm(右)で撮った写真

どれも同じ様に鼻と口が膨らみ気味になっているのが分かって頂けると思います。

すなわち顔の大きさは異なるものの、形状は同じ、すなわちどんなレンズを使っても被写体に近づいて撮れば画像は相似形に歪むという事です。

そんな訳で、広角レンズだから歪みが発生し易いのではなく、(レンズの焦点距離に関係なく)被写体に近寄り過ぎるから歪みが生じるのというのを分かって頂けたと思います。

ちなみに一番最初にお見せした歪み写真は、16mmの超広角レンズを使ってマネキンに10cmまで近接して撮ったものです。

レンズ先端から10cmのマネキンを超広角レンズ(16mm)で撮った歪み写真

さすがにここまでやる人はいないでしょう。

距離による違い

それでは次に、マネキンからの距離によって被写体の形状がどれくらいかわるか、調べてみます。

下は同じレンズを使ってマネキンを距離を、0.5m、1m、2mに変えて撮ったものです。

マネキンまでの距離が左から0.5m、1m、2m

既にお伝えしました様に、マネキンの形状は距離だけに依存しますので、レンズの焦点距離は何でも良いのですが、ここでは一応全て37mmで撮っています。

さらにこの顔の大きさを同じになる様にトリミングしたのが以下になります。

マネキンまでの距離が左から0.5m、1m、2m

これをご覧頂きます様に、0.5mと1mでは顔つきが若干異なるものの、1mと2mでは殆ど差は分かりません。

そんな訳で、たとえ24mmの広角レンズであっても被写体から1m以上離れていれば目立った歪みは生じないと言って良さそうです。

このため、例え広角レンズであっても被写体から1m以上離れていれば問題ないかと言えば残念ながらそうではありません。

これはあくまでも、被写体が画面の中央にある場合だけの話です。

被写体が画面の端にある場合

では、被写体が画面の端にある場合はどうなるでしょう。

下は24mmのレンズで、0.5m離れたマネキンを画面の端に寄せて撮った写真です。

0.5m先のマネキンを24mmレンズの画面端に置いた場合

するとご覧の通りで、顔が伸びたり縮んだりしてしまうという訳です。

歪みの傾向としては、画面の中心部から放射方向に画像が引っ張られ伸びているのが分かります。

ついでにマネキンまでの距離が1mのときも見ておきます。

1m先のマネキンを24mmレンズの画面端に置いた場合

さすがに人物をこんな風に配置する事はないでしょうが、ご覧の通り距離0.5mのときより更に歪みの程度が大きくなります。

これは顔が小さくなって更に画面の端に寄せた事によって、歪みの効果が大きくなるためです。

そんな訳で、広角レンズで近くの人物を撮る場合は、極力人物を画面の中央に置いた方が良いという事です。

ただし、ここでやっぱり広角レンズで撮ると顔が変形するじゃないか、と思うのは早計です。

こういう所に被写体を配置できるのは、広角レンズだからなのです。

最初にお見せした写真をもう一度お見せしますと、下の様に標準レンズの1m先では被写体を端に置くスペースは存在しないのです。

距離1mのマネキンを左から焦点距離24mm、50mm、85mmで撮った写真

それでもなお、やっぱり広角レンズだと顔が歪み易いと思われるかもしれませんが、そんな事はありません。

この50mmの標準レンズをイメージサークルを大きくして、大判のカメラに付けて撮れば、撮影画面が大きくなり被写体を端に置くスペースができます。

そしてそこにマネキンを置いたら、同じ様に歪むのです。

これで被写体の歪みは、レンズの焦点距離に因らず、あくまでも距離に起因するとご納得頂けましたでしょうか?

広角で撮ると細面(ほそおもて)になる

ところで先ほど被写体は極力画面の中央に置いた方が良いとお伝えしましたが、例外があるのに気付いて頂けましたでしょうか。

それは先ほどお見せした1m先のマネキンを撮った3枚の写真の内、真ん中のマネキンが左右中央上部に位置しているものです。

0.5m先のマネキンを24mmレンズの画面端に置いた場合

この写真の顔の部分を拡大すると、以下の様になります。

0.5m先のマネキンを24mmレンズの画面中央上部に置いた場合

これをご覧頂きます様に、(顔が上向きなのはともかくとして)顔が僅かながら細くなっているのを気が付いて頂けましたでしょうか。

1m先の画面中央のマネキン

これは顔を画面中央から上に寄せる事によって、顔が上方向に引っ張られるからです。

余り大きな声ではいえませんが、女性の場合顔を少し細くした方が間違いなく美人になります。

このため、広角レンズを使って顔を画面中央の上もしくは下に寄せれば、(レタッチソフトを使わなくても)顔を細面(ほそおもて)にして撮る事ができるのです。

次に、先ほどの1m先の場合の中央の写真を見て下さい。

1m先のマネキンを24mmレンズの画面端に置いた場合

これを拡大すると以下の様になります。

1m先のマネキンを24mmレンズの画面中央下部に置いた場合

先ほどよりもっと顔が細くなっているのを、分かって頂けると思います。

このため、広角レンズを使って更に縦位置で撮影すれば、全身が上下方向に引き延ばされて痩せてスタイル良く写るのです。

通常下の様な比較写真では、望遠系のレンズの方が背景がボケるとか、圧縮効果が出るといった説明に終始するのですが、実は広角レンズの方が被写体は痩せて写っているのです。

すなわち背景をボカスのではなければ、ポートレートを撮るには広角レンズの方が向いているとも言えるのです。

一度試してみて頂ければと思います。

と言いながら、最近TikTok等で縦位置の動画が流行っていますが、恐らくこれはスマホの広角レンズを使って全身を撮るとスマートになると薄々気が付いているからなのかもしれません。

まとめ

以上をまとめると、以下の様になります。

1. 被写体までの距離が同じであれば、レンズの焦点距離が変わっても被写体の形状は全く変化しない。

2.すなわち、 広角レンズだから歪みが発生し易いのではなく、(レンズの焦点距離に関係なく)被写体に近寄り過ぎるから歪みが生じるのである。

3. なお24mmの広角レンズの場合、被写体が画面中にある限り、被写体から1m以上離れれば気になる歪みは発生しない。

4. ただし広角レンズで被写体を画面の端に置いて撮ると、明らかに歪みが発生するので、近距離の人物を撮る場合は、被写体をなるべく画面中央に寄せた方が良い。

5. ただし、広角レンズを使って顔を画面中央の上下にもっていけば、顔を細面(ほそおもて)にする事ができる。

6. また広角レンズを使って縦位置で全身撮影すれば、痩せてスマートに撮る事ができる。

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