ラージフォーマットの真の魅力

本年9月に、フジフィルムから中判カメラのフラッグシップとも言えるFUJIFILM GFX100 IIが発売されました。

1億画素の撮像素子を搭載したFUJIFILM GFX100 II

これまでも1億画素の撮れるモデルはあったのですが、撮像素子と画像処理エンジンが刷新され、動画機機能が大幅に強化されたそうです。

初代FUJIFILM GFX100

それはともかく、ラージフォーマットと聞けば、画質が良い、諧調性が良い、ボケ易い、高感度特性が優れていると思われる事でしょう。

ところがそれは、美しい誤解だという話をしたいと思います。

撮像素子

中判の魅力は何と言っても撮像素子が大きい事でしょう。

上の図は小数点以下2桁まで記載していますが、縦横対角線が33mm、44mm、55mmと非常に分かり易くなっています。

面積はフルサイズより1.7倍(正確には1.67倍)も大きく、長さ比で1.3倍(正確には1.27倍異なります。

この1.3倍の逆数である0.8倍(正確には0.79倍)は、この後頻繁に出てきますので、是非今の内に覚えておいて頂ければと思います。

また縦横比が4:3と印画紙サイズに近いので、プリントするには最適です。

さらに、縦方向にトリミングしてもフルサイズほど無駄がないので、カメラを持ち変える事無く、ランドスケープ(横位置)とポートレート(縦位置)の写真が撮れるメリットがあります。

丁度フィルム時代の6×6判の様な使い方もできるという訳です。

6×6判の代表格HASSELBLAD-500CM2

また両者の撮像素子の違いは以下の通りです。

項目\タイプGFX50シリーズGFX100シリーズ
画素数5000万画素1億200万画素
型式表面照射型(低感度に有利)裏面照射型(高感度に有利)
ローパスフィルター無し無し
カラーフィルターベイヤー配列ベイヤー配列
像面位相差センサー無し(画素欠損無し)有り

どうしても最新のGFX100シリーズの方に目が行ってしまいますが、GFX50シリーズ表面照射型なので低感度においては裏面照射型よりノイズ面において有利です。

またコントラストAFというハンディはありますが、像面位相差センサーが埋め込まれていないので画素欠損もなく画質において二重に有利になります。

画質

先ほど撮像素子が1.7倍も大きいのだから、画質が悪いはずがないとお伝えしたのですが、実はそうでもないのです。

確かに画素数が同じならそうなるのですが、ところが画質に関係するのは、撮像素子の大きさではなく1画素の大きさです。

それで比べてみると、以下の様になります。

ご覧の通りで、中判の5000万画素でフルサイズの3000万画素、1億画素となるとフルサイズの6100万画素と同じ大きさになります。

これに該当するのは、ソニーのα7R Vになります。

6100万画素のα7R V(ISO100-32000)

更に辿って見ると、2600万画素のAPS-Cサイズ機と同じで、該当する機種はフジフィルムのX-H2Sになります。

FUJIFILM X-H2S(ISO160-12800)

そして更に辿ると、1600万画素のマイクロ4/3機と同じになります。

すなわち、画質(ノイズレベル)もダイナミックレンジも高感度特性も諧調性も、理論上これらの機種とほぼ同等という事です。

そうなると誰がどう見ても、GFX100シリーズがどえらく画質が良いとは思えないでしょう。

機種

撮像素子の特徴が分かった所で、GFXのカメラにはどんなモデルがあるか見ておきます。

ご覧の通り、今は1機種だけになってしまいましたが、初代の5000万画素の撮像素子を搭載したGFX50シリーズと、1億万画素のGFX100シリーズが4モデル存在します。

当然ながら大判ポスターや、記録保存用の写真、或いは思いっきりトリミングする様な場合は、1億画素のGFX100一択になります。

ただしそれ以外については、コントラストAFですが画質の良い5000万画素のGFX50がお勧めと言えます。

ただしそうなると、GFレンズが無駄になる様に思われるかもしれません。

何しろGFレンズは1億画素対応を目指して開発されているのですから。

とは言いながらも、1億画素に完全に対応できるのは、ある程度絞りを絞った場合で、やはり絞り開放ではそれなりに解像度は落ちます。

このため、絞り開放を多用する人物撮影においては、GFX 50シリーズの方が適していると言えます。

また趣味用として割り切れば、性能的には少々劣りますが、初代のGFX 50SにEVFチルトアダプターを付けて、ウェストレベルファインダーとして使うのも面白いかもしれません。

GFX50Sとチルト式ファインダー

焦点距離

次はレンズの焦点距離です。

先ず中判レンズの焦点距離をフルサイズに換算するには、両者の対角線比である0.8倍(正確には0.79倍)すれば良い事になります。

例えば下にありますGF55mmF1.7 R WRのレンズは、フルサイズ換算で43mmになります。

GF55mmF1.7 R WR(32万円)

ボケ量1

続いてはボケ量です。

フルサイズと同じ画角の場合、中判の方が望遠系のレンズになりますので、ボケ易くなります。

ではどれくらいボケ易くなるかと言えば、同じ画角のフルサイズのレンズと比べて2/3段(正確には0.68段)ボケ易くなります。

これは下の写真のF1.4とF1.8の差になり、ボケの大きさは1.27倍異なります。

フルサイズのカメラで撮った絞り値よるボケの大きさの違い

前述のGF55mmF1.7 R WRの場合ですと、これはフルサイズの43mm F1.3と同じ画角の同じボケ量になります。

ちなみにこのF1.3は、F1.7に同じく対角線比の0.79を掛ければ求められます。

F1.3となると、F1.2とF1.4の間ですので、さすがに中判と言った感じです。

ただしこれはたまたまフルサイズのレンズに43mm F1.3に似た物がないだけで、もしあれば中判と同じ写真が撮れるのは言うまでもありません。

ボケ量2

そんな訳で、次にフルサイズ換算で85mmに相当するGF110mmF2 R LM WRを見てみましょう。

GF110mmF2 R LM WR(40万円)

この場合、フルサイズの85mm F1.6と同じ画角で同じボケ量なります。

ソニーのFE 85mm F1.4 GM II(25万円)

1本40万円もするレンズが、1本20万円台で買えるフルサイズの85mm F1.4よりもボケは小さくなるのです。

値段は倍近くもするのにボケ量は劣る。

そんな事、許せます?

ちなみにもしフルサイズの85mm F1.4と同じ画角で同じボケ量となるGF110mm F1.8 R LM WRなるレンズを作ったとしたら、恐らく値段は50万円以上になるのでしょう。

中判のレンズがいかに高いかが分かります。

ボケ量3

値段はともかくとして、果たして現在市販されているGFレンズとフルサイズ用レンズではどちらがボケるのでしょうか?

本邦初公開で、それが一目で分かる資料をお見せしたいと思います。

このチャートの下にある5本のレンズがGFレンズのボケ量トップ5なのですが、フルサイズレンズならばこれよりもボケるレンズが多数存在しているのが分かります。

被写界深度

次は被写界深度です。

良く中判カメラを使うと、立体感や奥行きが強調される、或いは空気感が出るなんて言われます。

その理由ですが、恐らく中判カメラの場合、同じ画角で撮るには望遠系のレンズを使う事になり、被写界深度が浅くなる事が理由なのでしょう。

実際被写界深度を計算してみると、同じ画角で同じボケ量になるレンズを比べてみると、中判の方が被写界深度は浅くなります。

と言うのは間違いです。

確かに許容錯乱円を一般的な0.033mmで計算するとフルサイズより中判の方が浅くなるのですが、中判の場合撮像素子が大きい分拡大率がフルサイズより小さいので、その分許容錯乱円を修正すれば被写界深度は同じになるのです。

すなわち、前述のGF55mmF1.7 R WRとフルサイズの43mm F1.3では、全く同じ画像になるという事です。

という訳で中判カメラで撮ると、立体感が出ると言うのは、美しい誤解だと言わざるを得ません。

恐らくこの話の由来は、単に同じ画角の同じ絞り値で撮れば、中判の方が被写界深度が浅くなるからなのでしょう。

歪(ゆが)み

続いては歪みです。

こんな話は聞かれた事はないでしょうか?

中判カメラだと同じ画角でも望遠系のレンズを使う事になるので、歪みが少なくなり人物撮影に向いていると。

これは、理論的には間違いなのですが、実使用においては正解です。

と言いますのは、歪みが発生するのは、レンズの焦点距離に因るのではなく、被写体までの距離に関係するからです。

例えば中判の30mmとフルサイズの24mmは同じ画角になります。

これで同じ距離だけ被写体にどんどん近付いて撮れば、全く同じ様に被写体は歪みます。

ところが、フルサイズの24mmでしたら、最短撮影距離は15cm程度です。

一方、換算24mmのGFXの30mmでしたら最短撮影距離は30cmです。

そんな訳で、中判のレンズはフルサイズのレンズと比べて望遠な分だけどうしても最短撮影距離が長くなり、その分被写体から離れて撮る事になるので、被写体が歪む可能性が低くなるという訳です。

レンズの種類

という事で、一通りラージフォーマットの特性を知った所で、折角なので楽しい楽しいGFレンズ選びをしてみましょう。

カメラを買う時もそうなのですが、カメラを買って次はどんなレンズを買うか迷うのが一番楽しいときかもしれません。

先ずはズームレンズです。

この図の白枠内に追記したのが、フルサイズ換算の焦点距離とF値で、カッコ内が当該GFレンズの値段です。

ズームレンズはどうしても必要になるので、風景用ならGF32-64mmF4(換算25-50 F3.1)、人物メインならばGF45-100mm F4(換算35-79mm F3.1)でしょうか。

次は単焦点レンズです。

ご覧の通りで、興味深いのは標準レンズにあたる物が3本あります。

GF63mm F2.8(換算50mm F2.2)はともかくとして、明るいGF55mm F1.7(換算43mm F1.3)とGF80mm F1.7(換算63mm F1.3)については悩みどころです。

当然ながらGF80mm F1.7の方が断然ボケるので、被写体までの距離が稼げる広いスタジオや屋外でしたらGF80mm F1.7で、そうでないならGF55mm F1.7といった感じでしょうか。

こんな事ならフルサイズ換算で50mmとなるGF63mm F1.3を1本造ってくれた方が、悩まないで済むと言えます。

なお価格については、GFレンズはフルサイズ用のレンズと比べて凡そ2倍高いといった感じでしょうか。

まとめ

まとめは以下の通りです。

1)ラージフォーマットはフルサイズより1.7倍大きくて、縦横比が4:3なので、大判プリントに最適である。

2)ただし画素数が多いので、画質についてはGFX50でフルサイズ機並み、GFX100でAPS-Cサイズ機並みと言える。

3)GFレンズの焦点距離と絞り値を0.8倍(正確には0.79倍)したレンズを使用すれば、フルサイズで全く同じ写真が撮れる。

4)同じ画角で同じ絞り値であれば、フルサイズより中判の方が2/3段ボケが大きくなるが、GFレンズにおいてはフルサイズ以上にボケるレンズはない。

5)中判で撮ると奥行き感が増すと言われているが、換算レンズを使えば同じ写真が撮れるので理論的な根拠はない。

6)中判で撮ると、フルサイズより望遠系のレンズを使う事になるので、最短撮影距離が長い分被写体歪みが起きにくい。

という訳で、中判の魅力は結局画素数の多さだけの様な結論になってしまいました。

ですが、中判の最大の魅力はそれではありません。

中判の魅力

中判最大の魅力は、そのステータスでしょう。

別の言い方をすれば、憧れとか、ネームバリューとか、名声とか、羨望とか、思い込みとか、神話とか、評判とかです。

ごくごく普通の方でしたら、誰しも中判と聞けば画質はトップクラスだと思いますし、ましてや1億画素と聞けばどんなにスゴイ画像だろうと思ってします。

更にGFXの場合、評判の高いフィルムシュミレーションを搭載していますので、撮って出しの画像は明らかに他社機より優れています。

 

そうなると仮にたった200万画素しかないFHDの24インチのモニターで見ただけでも、奥行き感があるとか、諧調性が高い、空気感があるとか、最高画質だと感じてしまうのは無理からぬ事です。

それをクライアントもモデルも含めて撮影スタッフ一同が共有できれば、関係者全員が満足できるのですから、そんな幸せな事はないでしょう。

にもかかわらず、理論上はそんな事はあり得ないと言っても、意味のない事です。

スパーカーが、実際に速いかどうかは、どうでも良い事なのです。

という訳で、中判最大の魅力は有形無形に関わらず、フィルム時代から綿々と築き上げられたそのステータスの高さにあり、撮った写真が理論的に他のカメラとどう違うかはあまり問題ではないという事です。

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