視認性を取るかピントを取るか

はじめに

先日”Lumix S5IIの表示系フレームレート低下騒動”なる記事を書いたのですが、これに関していくつかコメントを頂きました。

コンティニュアスAFで表示系のフレームレートが低下するLumix S5II

本件については、市場の声に従うべきという事で弊サイトの見解は控えていたのですが、コメントを頂いたとなると、ついつい発言したくなるのが弊サイトの悪い所です。

で、弊サイトの見解を言わせて頂ければ、もし本当に表示系のフレームレートを60fpsに上げたらAF精度が低下するのならば、そんな改悪は絶対に行うべきではないというものです。

その理由は以下の通りです。

30fpsの見え方

先ずはフレームレート30fpsがどの程度の見え方なのか考えてみます。

このフレームレート30fpsとは、一般的なTV(FHD)のフレームレートです。

FHDのテレビ放送は30fps(正確には60i)

これでオリンピックなりワールドカップを視聴した際、動きがカクつく(滑らかではない)と思われた事がありますでしょうか?

見比べれば確かに60fpsの方が画像は滑らかに見えるのですが、かと言って30fpsより決定的瞬間が捉え易くなるかと言えば、そうは思えません。

人の反応速度

次に人の反応速度です。

突然ですが、クルマの空走距離をご存知でしょうか?

人が危険を察知してからブレーキを踏むまでに走る距離で、時間にすると凡そ0.7秒との事です。

脳からの伝達距離の違いから、ここぞと思った瞬間からシャッターボタンを押すまでの時間はもっと短いでしょうが、狙った瞬間にシャッターボタンを押した所で、その決定的瞬間は既に過ぎ去っているのは間違いありません。

何が言いたいかと言えば、表示系のフレームレートをどんなに上げても、目で見てからシャッターボタンを押す限り、決定的瞬間は決して撮れないのです。

フレームレートが無限の場合

そうは言っても、中には60fpsになれば30fpsよりも決定的瞬間が捉え易くなると思う方もいらっしゃる事でしょう。

だったら一度試して頂きたいのですが、光学系ファインダーを搭載した一眼レフ(これはフレームレートが無限に近いと言えます)を使って、高さ1mの所から落としたボールが地面に着く瞬間の写真を撮ってみて頂ければと思います。

これがとんでもなく難しいのです。

たとえ一眼レフであっても、ボールが地面に接触する瞬間を捉えるのは非常に難しい

恐らく単写で何十枚撮っても、その瞬間は捉えられないのではないでしょうか。

デジタルカメラでしたら、撮った直後の写真を見てシャッターボタンを押すタイミングを調整できると思いきや、撮ったボールが地面に当たる前なのか、当たって跳ね返ったときなのかさえ判断が付きません。

表示系のフレームレートが上がれば、決定的瞬間を捉え易くなると思うのは、ハッキリ言って美しい誤解です。

表示系のフレームレートを上げるメリットは、単に滑らかに見えるという事だけなのです。

高速連写を使うとどうなる

そうなると、決定的瞬間を捉えるためには、高速連写を使う事になります。

実際これでしたら、先ほどのボールが地面に着く瞬間を、比較的容易に捉える事ができます。

ただしその場合は、ご存知の様に1枚撮る度にブラックアウトしますので、30fpsとか60fpsとかいう次元の話ではなくなります。

なおブラックアウトしないカメラも存在しますが、高価なのはご存知の通りです。

ピンボケ写真は犬も食わない

そうは言っても、どうしても見え方にこだわる方もいらっしゃる事でしょう。

ですが、もし見え方を良くしたらその代償としてAF性能が低下するとしたら、どちらを優先すべでしょうか?

写真をやっている方でしたら良くご存知の様に、写真の4大不良はピンボケ、ブレ、ノイズ、露出不良と言って良いでしょう。

実際この中のどれか一つでもあると、どんなに決定的瞬間であっても、どんなに絶世の美女を撮ったとしても、どんなに手間と費用が掛かった写真であっても、下手な写真と一蹴されてしまいます。

それでもなお見え方にこだわりますか?

まとめ

以上をまとめますと、

①30fpsとは一般的なTVのフレームレートであり、それで動きのあるスポーツシーンを見ても特に気になる事はない。

②人の反応速度を考えると、たとえ表示系のフレームレートが速くなっても、決定的瞬間を捉える事はできない。

③実際、光学ファインダーを搭載した一眼レフを使っても、単写でボールが地面に着いた瞬間を捉える事は非常に難しい。

④決定的瞬間を捉えるには高速連写が有効であるが、その場合通常は画面がブラックアウトするので、フレームレート以前の話になる。

⑤以上の事から、もし本当に表示系のフレームレートを上げたら、その代償としてAF性能が低下するのであれば、フレームレートは上げるべきではない。

というのが弊サイトの考えです。

最後に

最後にもう一つ。

既にお伝えしました様に、30fpsと60fpsは交互に動いている物を見比べない限り、殆ど違いは分かりません。

実際いきなりあるカメラのファインダーを覗いて、それが30fpsか60fpsか(はたまた120fpsか)即答できる人はいないでしょう。

丁度1台のクルマのエンジン音を聞いて、4気筒か6気筒かを判断する様なものです。

ところがLumix S5IIの場合、コンティニュアスAFにしてAFを起動した途端に60fpsから30fpsに切り替わるのです。

すなわち一番フレームレートの変化に気付き易い事をやってしまったのです。

このためもしかしたら、常時30fpsにしていれば、誰も気付かなかった(もしくは誰も気にしなかった)可能性が十分ある事も付け加えておきます。

いずれにしても、今後パナソニックがどんな対策を講じるのか(どんな判断を下すのか)、非常に楽しみです。