Log撮影の美しい誤解

はじめに

少々過激な発言で恐縮ですが、何でLog撮影なんかやるのでしょうか?

不思議でしょうがありません。

とは言え、ソニーのHPには以下の様な記述があるのですから、誰しも一度は使ってみたいと思われる事でしょう。

ソニーHPにあるS-Log撮影のメリット

ですが、これはかなり無責任な広告ではないでしょうか。

何しろLog撮影の短所を何一つ語っていないのですから。

ちなみにネットで調べたLog撮影の長所と短所は、以下になりますでしょうか。

長所 短所
白飛び、黒潰れを防げる 編集に手間が掛かる
カラーグレーディングに最適 編集が難しい
自分好みの色味に調整できる ノイズが乗り易い
シネマ風の映像にできる ISO感度を高くしなければならない
プロが使っている
編集の幅が広い

ところがここに、一番大きな短所が抜け落ちているのです。

というのを、これから分かり易く解説してみたいと思います。

Log撮影とは

それでは最初に、そもそもLog撮影とは何かについてご説明したいと思います。

Logの動画ファイルとは

下はLog撮影で撮った動画とダイナミックレンジの関係について、無理やり(苦労して)作成したイメージ図です。(くどい様ですがあくまでもイメージです)

これを見て何となく言いたい事を分かって頂けますでしょうか。

簡単にご説明しますと、日常光のダイナミックレンジ(明るさの範囲)が23段程度だとして、カメラ(RAWファイル)のダイナミックレンジは14段程度あります。

そして一般的な動画ファイルのダイナミックレンジは、モニターのダイナミックレンジに合わせてここでは8段程度だとします。

それに対してLogで撮った動画ファイルのダイナミックレンジは12段程度あり、一般的な動画ファイルより広いダイナミックレンジを有しています。

すなわち、本来8段分のダイナミックレンジしかない動画ファイルに、この広いダイナミックレンジを無理やり詰め込んだのがLogの動画ファイルになります。

このため、それを一般的なモニターで見れば、恐ろしく眠い軟調の画像になってしまうという訳です。

どうやって詰め込むのか

ではどうやってこの広いダイナミックレンジを、一般的な動画ファイルに詰め込むのでしょうか。

そこで登場するのが、対数(Log)変換という訳です。

これまたあくまでもイメージですが、このダイナミックレンジの8段と12段では、2の4乗で16倍の明るさの範囲に違いがありますので、これを普通のグラフで表すと以下の様になります。

こんなに違うものを、8段の動画ファイルに詰め込むのですから、かなり無理があるのは分かって頂ける事でしょう。

数値で言うと、0~4096の明るさの範囲を、0~255の中に入れる事になるですから。

一方これを対数で表すと、以下の様になります。

これでしたら、何とか12段を8段に詰め込める様な気がします。

ただし無理して詰め込んでいるのは同じ事で、暗部は多少データがあるものの、明部のデータはスカスカと言えます。

Log動画のグレーディングとは

そして次に、これをまともな画像として見れる様に、グレーディングと呼ばれる(名ばかりの)アカデミックな手法で8段のダイナミックレンジに戻すのです。

すなわちLog動画に詰め込んだ12段分の画像から、好みの8段の部分を抜き出して、再度8段の動画ファイルに拡げて記録しているのです。

早い話が、静止画のJPEGファイルを極力軟調に撮って、それをフォトショップで明るさや色味やコントラストを変えているのと同じ事なのです。

それで画質が良くなると思いますか?

ましてや既成のLUT(Look Up Table)を当てて、それに多少手を加えるのであれば、普通の動画に手を加えた方が余程画質の劣化を抑えられます。

滅多な事で絶対という単語を使わないのですが、Logで撮った動画をどんなにいじった所で、下の様な色味と諧調を出す事は絶対にできないのです。

まとめ

という事でまとめとしましては、

Log撮影は後で編集できる余裕は一般的な動画ファイルよりあるものの、それをグレーディングした画質は間違いなく一般的な動画ファイルより劣る

と言う事です。

もっと言わせて頂けるのならば、

Log 動画のグレーディングとは、画質を劣化させているのと同意語だ

という事です。

なおもしどうしても画質の劣化なく動画を編集したいのなら、RAWで撮る事です。