カメラメーカーの商品戦略(ニコン編)

ニコンについては、カメラメーカーの中で最も保守的なイメージが強いのですが、それがこの数年で大きく変わったのは間違いないでしょう。

その象徴が、何を隠そうNikon Z 9でしょう。

2021/3に開発発表されたNikon Z 9

2021/3に開発発表されたNikon Z 9ですが、その当時はあーそーくらいの印象しかありませんでした。

Nikon Z 9の開発発表に関するプレスリリース

何しろそれまでにニコンから発売されたフルサイズのミラーレスカメラは、一眼レフから単にミラーを外しただけで、同じ撮像素子を使ったソニー機の二番煎じの様な物だったからです。(Z 5を除く)

Z 7 II
4575万画素
2020/12

Z 6 II
2450万画素
2020/11

Z 5
2000万画素
2020/8

Z 50
2400万画素
2019/11

ところがNikon Z 9が正式発表された2021/10に、その評価は一変しました。

正にモンスターです。

何しろ(ファームアップ後とは言え)いきなりRAWの内部記録で、前人未到の8K60P対応を謳ってきたのですから。

通常カメラの開発は、製品仕様が決まってから本生産開始まで、1~2年くらいでしょうか。

また大物でも、せいぜい2~3年でしょう。

ですが恐らくZ 9においては、基礎研究まで入れると5年以上は掛かっているのは間違いないでしょう。

何しろZ 9の4500万画素の積層型撮像素子と画像処理エンジン(EXPEED 7)は、他社より明らかに数年先を行っているからです。

恐らく現在のデジタルカメラにおいて最高の処理能力を持つEXPEED 7

メカシャター並みの読み取り速度を実現した積層型撮像素子もスゴイのですが、従来比で10倍も処理速度を上げたEXPEED 7は驚異的としか言いようがありません。

実際Z 9発売後既に丸2年が経過していながら、それに直接対抗できるカメラが存在していない事からも明らかです。

ではそのZ 9のプロジェクトが立ち上がったであろう7年前の2016年頃に、何があったか思い出してみましょう。

ご存知かもしれませんが、2016年のCP+で華々しくデビューしたNikon DLシリーズが、その後生産上の都合で発売が中止されました。

日の目を見る事が無かったNikon DLシリーズ

どうみても数億円の開発費を投じた製品3台をお蔵入りにしたのですから、当時は一体何があったのかと思ったものです。

またニコンユーザーだけではなく、これに関わったニコンの関係者の落胆は、計り知れないものがあったでしょう。

またちょうどこの頃、それまでの中期計画を断念し新たな構造改革フェーズに移行すると共に、国内で1000人規模を削減すると発表しました。

2016年11月に発表された新たな中期計画

恐らくこの時点で、ニコンの経営陣はこのままではかなりマズイ事になると認識していたのでしょう。

そしてこの時点でコンデジからの完全撤退と高価格帯の製品に注力する事が決定し、数年後を見据えてZ 9の開発が始まったのではないでしょうか。

そしてその一環なのでしょう、2016年に発売されていたニコン初のアクションカメラであるKeyMissionシリーズも1代目で撤退しました。

1代目で姿を消したKeyMissionシリーズ

さらに2011年から発売され5代目まで続いた1インチサイズミラーレスのNikon 1シリーズも5代目を最後の2018年に撤退しました。

最後の1インチサイズのミラーレスカメラとなったNikon1 J5

傍から見れば、せっかく苦労して立ち上げたブランドを次々に潰して、一体全体ニコンのマーケッティングは何を考えているのだろうと思っていたのですが、今になってみればそういう事だったのです。

そこまでして、ニコンの経営陣はNikon Z 9に賭けたのです。

またNikon Z 9発売後も興味深い事があります。

誰しも次の新製品は、最も数の捌けるZ 6IIIだと思うでしょう。

ところがさんざん待たされて出てきたのは、Z9から縦グリップを無くしたZ 8とは。

Nikon Z 9とZ 8

さすがにこれを予想できた人はいないでしょう。

確かに今になれば、多大な開発コストの掛かっているZ 9の撮像素子と映像エンジンをZ 9
だけに使う訳にはいかないからと言えるのですが、売れ筋のZ 6IIIを差し置いて出して来るとは思わんでしょう。

これによってZ 7IIIやZ 6IIIを待ち続けていたユーザーを、それより高価なZ 8に引き込んだのは間違いありません。

またうっかりZ 8に引き込まれたとしても、その卓越した性能から後悔する事はなかった事でしょう。

で話はまだ終わりません。

そうなると今度こそZ 6IIIだと思ったら、何と次はこれまた全く予想もしなかったクラシカルデザインのZ fです。

フィルムカメラ風のNikon Z f

とは言え、どうせ中身はNikon Z 6IIだろうと思ったら、何とあのEXPEED 7を搭載して、現行のZ 6IIよりも高性能にして出してきたから二度びっくりです。

これでニコンの戦略が分かったのではないでしょうか。

スマホと競合するコンデジは二度と作らない。

普及機を含めてどんどん高価格帯に背品をシフトさせると共に、他社と違った特徴ある製品を出す。

そして(自社に業務用ビデオカメラが無い事から)何の遠慮も無く動画性能を存分に向上させる。

ここまで分かると、次なるニコンのターゲットが見えてきます。

それは、動画機能を充実させた全天候カメラNikonosの復活でしょう。

水中カメラでありながらAF機能を搭載したNikonos RS

Nikons RSNikon 1 AW1を出したニコンなら、やってくれそうに思うのですが。

Nikon1 J3をベースに開発された水中カメラのNikon 1 AW1

海辺でも酷使できる全天候カメラがあれば、鬼に金棒なのですが。

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