電子シャッターとそのスキャン速度

2021/04/23:更新

はじめに

SONY α1の電子シャッターが、ついにスキャン速度1/200秒を達成しました。

これによって、画像歪がメカシャッター並みに抑えられる事になります。

となると、他機種はどのくらいか知りたくなってきませんでしょうか。

スキャン速度1/200秒を達成したSONY α1

公式にはどこのメーカーも電子シャッターのスキャン速度は発表していないのですが、今はネットを検索するとあの手この手で測定した結果が見つかります。

そんな訳で、それらをまとめた結果をご紹介したいと思います。

電子シャッターのスキャン速度とは

その前に、電子シャッターのスキャン速度についてご説明したいと思います。

これを非常に単純なタイムチャートで表すと以下の様になります。

電子シャッターの画像読み込みタイムチャート

これをご覧頂きます様に、スキャン速度と言いながら、実際は撮像素子の一番上のLine 1から一番下のLine nまでの読み込み時間の和(すなわち紫の部分の和)なのですが、ここでは手っ取り早くこれをスキャン速度と呼ばせて頂きます。

ですので1画面撮るには、シャッタースピードとスキャン速度を足した時間が必要になります。

またスキャン速度は、読み込み時間にのみ起因し、シャッタースピードが速くなっても遅くなっても変わりません。

そしてスキャン速度を速くするには、この1ライン当たりの読み込み時間を短くしなければいけないという訳です。

ついでにお伝えすると、同じ撮像素子であっても1ラインのビット数が多くなれば、この読み込み時間が長くなります。

ではこのスキャン速度が速くなればどんな良い事があるかと言えば、既に良くご存知の様に画像歪が小さくなります。

電子シャッターのスキャン速度が速くなると画像歪が小さくなる

またシャッタースピードがスキャン速度より遅くなれば、下の図の様にストロボの同調も可能になります。

シャッタースピードがスキャン速度より遅くなればストロボの同調可能

それではこのスキャン速度がメカシャッターの何に当たるかと言えば、言わずと知れた幕速度です。

幕速度とは、メカシャッターが上下する速度で、一般的には1/60~1/250秒です。

下の図で言えば、先幕と後幕が降りる赤い矢印のスピードが幕速度になります。

そして良くご存知の通り、シャッターが開いている時間がシャッタースピードになり、シャッター全開時にストロボを発光すれば発光ムラなく写せます。

また通常幕速度は、ストロボの同調速度と同じになります。

そんな訳で、以下の式が成り立ちます。

電子シャッターのスキャン速度≒メカシャッターの幕速度≒ストロボの同調速度

なお誤解されている方が多いのですが、メカシャッターでも画像歪は発生します。

高速のメカシャッターで撮った動く被写体

ただしメカシャッターの幕速度は通常1/250秒なので、さほど目立たないという訳です。

ですので、電子シャッターのスキャン速度が1/250秒であれば、画像歪は許容範囲と思って頂いて良いでしょう。

そこまで知って頂いた上で、次にいよいよ現行機種における、電子シャッターのスキャン速度を見てみたいと思います。

スキャン速度一覧

下がその、ネットでかき集めたフルサイズカメラのスキャン速度になります。

メーカー SONY Canon Nikon Lumix
機種 α7 III α7S III α9 α1 R5 R6 Z7 Z6 Z5 S5 S1 S1R
Full 1/30 1/125 1/150 1/200 1/60 1/60 1/20 1/45 1/10 1/20 1/20 1/30
APS-C 1/35 1/250 1/160 1/80 1/15
メカ 1/250 1/250 1/250 1/400 1/300 1/300 1/250 1/250 1/350 1/320 1/500 1/500
機種別シャッターの電子シャッターとメカシャッターのスキャン速度(単位:秒)

 

表中のFullとあるのがフルサイズで撮影時、APS-CサイズとあるのはAPS-Cサイズにクロップした場合、メカとあるのはメカシャッターの幕速度を表します。

生憎これらの測定精度がどの程度か不明ですが、こうやって見るとかなりそれらしい値ではないでしょうか。

こうやってあの手この手で測定されている方々には、頭が下がります。

メーカー側も調べればわかる事は開示すれば良さそうなものですが、自社機が劣る情報は余り開示したくないのかもしれません。

それはともかく、これをご覧頂きます様に、ソニーのα9とα1が頭二つ分程、他社機より抜きに出ている事が分かります。(ただしメカシャッターはLumix S1系が最速)

市場の期待としては、ローリングシャッター(電子シャッター)の次は、一括同時読み込みのグローバルシャッターですが、ソニーはその前にローリングシャッターの高速化を目指している事が窺えます。

その次はEOS R5とR6の1/60秒です。

この辺りのスキャン速度でしたら、人物撮影には何の支障もなく使えると思って良いでしょう。

そして次がNikon Z6の1/45秒です。

ここで興味深いのは、同じ撮像素子だと思われているα7 III(1/30秒)よりスキャン速度が速いという事です。

Nikon Z 6もα7 IIIも14bitのRAW出力に対応しているのですが、もしかしたらNikon Z 6は14bitのRAW出力以外の時は低いビットレートで読み込んでいるのかもしれません。(或いは測定値が間違っているか、もしくは撮像素子の仕様が異なる可能性もあるのですが)

最後に小サイズ機のスキャン速度を、以下にご紹介しておきます。

ブランド SONY Canon Fuji Nikon OMD Lumix
機種 α6600 EOS M6 II X-T4 Z 50 E-M1 III G9 PRO
スキャン速度 1/20 1/20 1/45 1/40 1/30 1/20
メカ 1/300 1/500 1/500 1/350 1/400 1/300
機種別シャッターの電子シャッターとメカシャッターのスキャン速度(単位:秒)

 

本来ならば、小さな撮像素子の方がスキャン速度は速くなるのですが、いつの間にフルサイズ機に追い越されてしまった様です。

1/200秒と1/250秒の差

全体の傾向が分かった所で、それでは次にα1のスキャン速度である1/200秒について考えてみたいと思います。

先程スキャン速度が1/250秒以上あれば画像歪は許容範囲とお伝えしましたが、今話題のSONY α1は1/200秒と僅かにそれに達しませんでした。

この1/200秒と1/250秒の差ですが、引き算すればたったの1/1000秒(1/50秒ではありません)の差です。

また倍率にすれば1.25倍(逆数で0.8倍)の差なのですが、この差がα1にとって大きな悩み処だったのかもしれません。

何故ならば、もしスキャン速度1/250秒を達成したのならば、α1は大手を振ってメカシャッターを削除できたのですから。

もし一部のユーザーから何でいきなりメカシャッターを削除したのだと言われても、メカシャッターと同等の性能ですと正論で切り返せます。

実際、1/250秒であれば画像歪みもメカシャッターと同じになり、シャッター音が必要だと言われる方には、スピーカーからカシャとかピヨピヨとかの擬音を出しておけば良いのです。

さらに電子シャッターは、メカシャッターに比べて蛍光灯等のフリッカーを拾い易いのですが、下に有ります様にα1は、電子シャッターでもフリッカーレスに対応したそうです。

おまけに、α1は電子シャッターでもストロボ同調可能になりました。

となれば、ここは思い切ってメカシャッターを削除すべきだったのではないでしょうか。

にも関わらず、ボケ欠けの発生する電子先幕メカシャッターを採用したのですから、プロ機としてはどうしてもチグハグな印象は否めません。

 

α1の単幕メカシャッター

おまけにこの電子先幕シャッターにおいて、ストロボ同調速度1/400秒を達成したのは立派なのですが仕様書には気になる事が書かれています。

α1のストロボ(フラッシュ)同調速度に関する記述

どうやら耐久性の問題か、それとも消費電力の問題か、通常の幕速度は1/320秒で、フラッシュ同調速度の設定をONにしたときだけ1/400秒になる様です。

ここまで苦労するのでしたら、やはりメカシャッターを削除して価格を下げた方が良かったのではないでしょうか?

一番優れたシャッターはどれか

α1の話が長くなってしまいましたが、本書でお伝えしたかったのは、とうとう電子シャッターがメカシャッターに迫ってきたという事です。

ここまで来たら、長年メカシャッターに慣れ親しんできた御仁も、電子シャッターを使わざるを得ないでしょう。

ちなみにそれぞれのシャッターの特徴を、まとめると以下の様になります。

項目\種類 メカシャッター 電子先幕シャッター 電子シャッター
シャッター音 有り 有り 無し
シャッターブレ 有り 1枚撮影は無し
連続で2枚目以降有り
無し
画像歪 有り 有り 目立つ→有り
ボケ欠け 無し 有り 無し
フリッカー 有り 有り 目立つ→有り

上の表を〇✖△の記号で表すと以下の様になります。

項目\種類 メカシャッター 電子先幕シャッター 電子シャッター
シャッター音
シャッターブレ
画像歪 ✖→△
ボケ欠け
フリッカー ✖→△
総合点 4 4 8

するとご覧の通り、明らかに電子シャッターが優位になります。

さすがにα1はお高いのですが、動きの遅い被写体には電子シャッターを使っていかなければいけない、というのが本書の結論としたいのですが、いかがでしょうか。

となると、メーカー側に早くお願いしたいのは、(電気自動車の様に)電子シャッターに疑似音の追加です。

 

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