目次
はじめに
なぜスマホの画質は、あんなにも良いのでしょうか。
実際フルサイズ機で撮った写真と見比べてみても、画質に関して歴然とした差は見当たりません。
本来ならば、撮像素子が大きなフルサイズ機の方が、断然画質が良い筈です。
以前でしたら、スマホと同じ大きさの撮像素子を搭載したコンデジで撮ると、塗り絵の様にベタとした色調で、明らかにフルサイズ機の方が画質は上でした。
何故スマホの画質はこんなに良くなったのでしょう。
今回はその謎に迫ってみたいと思います。
フルサイズ機とスマホの撮像素子の差
先ず始めに、両者の撮像素子の大きさの差を正確に把握しておこうと思います。
フルサイズ機の撮像素子は、(実際には若干小さいのですが)36×24mm(縦横比3:2)です。
一方スマホで一般的な1/2.3型の撮像素子の大きさは、6.3×4.7mm(縦横比4:3)です。これを面積で比べると、29倍も異なるのです。
例えはあまり良くはありませんが、四畳半とシングルスのテニスコートの差と言えば分かり易いでしょうか。
そうなると、当然同じ露出設定であればフルサイズの方がより多くの光を取り込む事ができるので、画素数が同じであればフルサイズ機の方がスマホより29倍画質が良いと言えます。
ちなみにこの29倍をカメラで良く使われる段数で表すと4.9段になり、この差をグラフにすると下の様になります。
ところが既にお伝えしました様に、出力された写真はそれほど違う様に見えません。
それはスマホには画質を良くするために、(従来のコンデジと異なる思想で)様々な工夫が凝らしてあるからです。
それをこれからご説明します。
画素数
先ず一つ目は画素数の差です。
フルサイズ機の場合、画素数は1200万~6000万画素なのに対して、スマホで一般的な画素数は今でも1200万画素程度です。
ちなみに最近のレンズ一体式のコンデジでしたら、2000万画素が一般的です。
仮にフルサイズ機の画素数が2400万画素だとすると、スマホはフルサイズ機に対して半分の画素しかないので、撮像素子の大きさは29倍違うものの、画質に影響する1画素の大きさはその半分の14.5倍しか違わないという事です。
これによってスマホの画質は、同じ画素数のときより2倍(1段)良くなる事になりますので、差は以下の様に3.9段になります。
これで少しフルサイズ機の画質に近づいてきたのが分かって頂けると思います。
ちなみにもしフルサイズ機の画素数が4800万画素ですと、スマホとの画質は2段上がり、その差はこの段階で2.9段まで縮まります。
最低ISO感度
そうは言っても、依然フルサイズ機の画質とは3.9段もの差があります。
では次に何をしているかと言えば、最低ISO感度を大幅に下げて、暗所性能を犠牲にしてでも明るい所での画質を上げる様にしているのです。
具体的にはフルサイズ機の最低常用ISO感度がISO100で、コンデジがISO80程度なのに対して、スマホは最低ISO感度をISO25にしているのです。
という事は、スマホの1画素はフルサイズより小さいものの、最低ISO感度を1/4にして(増幅回路のゲインを下げ)、その分シャッタスピードを長くして、光を4倍多く1画素に取り込む様にしているのです。
1画素の面積が小さいハンディキャップを、光を取り込む時間を長くする事で補っているのです。
フィルムで言えば、低感度のフィルムほど、画質が良いのと同じ理屈です。
この4倍を段数にすると2段ですので、これによってスマホの画質はトータル3段まで上昇し、何とフルサイズ機との画質の差は1.9段にまで縮まります。
とは言っても、1.9段も違うとまだまだ画質の差は明らかです。
絞り(ISO感度)
ではスマホは更にどんな事をやっているかと言えば、絞りを常に開放(そもそも絞り羽根が無いのですが)にして、ひたすら画質が最も良いISO25を維持して撮っているのです。
一昔前のスマホのレンズは、フルサイス換算で28mm F2.8程度のレンズが一般的でしたが、今では複数の焦点距離のレンズとメインレンズはF1.8程度の明るいレンズを搭載しています。
ご存知の様にスマホはフルサイズ機に比べて被写界深度が深いので、F1.8の開放で撮り続けても何の問題もありません。
ちなみに絞りF1.8で、ISO感度が25、シャッタースピード1/30秒であれば、EV8(エレベーターの中)の明るさまで撮れます。
ところがフルサイズ機の場合は、被写界深度が浅い事もあって、F1.8の開放のままで撮り続ける事は現実的ではありません。
このため、ここで仮に1段絞ってF2.5にしたとします。
その場合、シャッタースピードを1段遅くすれば、1画素の受光量は変わらないので、画質は変化しません。
ところが手振れを恐れて、ISO感度を1段上げたとすると、1画素の受光量は減って半分になります。
するとその瞬間、フルサイズ機の画質は1段低下する事になるのです。
これをグラフで表すと以下の様になります。
ついに画質の差は、0.9段にまで迫ってきました。
ですが、これで安心してはいけません。
仮にフルサイズ機において絞りを2段絞ってF3.6にし、ISO感度をISO400に上げたとすると、画質はついに0.1段逆転してスマホの方が良くなるのです。
まさかと思われるかもしれませんが、スマホがISO25で撮れる明るさ(EV8まで)であれば、こんな事が起こりうるのです。
ついでにお伝えすると、フルサイズ機の廉価版標準ズームレンズの開放値は、F4より暗いので、明るい所では、スマホより画質が劣った写真を量産している可能性すらあるのです。
マルチショットNR
とは言え、既にお伝えしました様に、スマホは最低ISO感度をISO25にまで落としていますので、暗所では明らかにフルサイズ機より劣っています。
そこで登場するにが、マルチショットNR(ノイズリダクション)です。
これは1回シャッターを押すと複数枚の写真を撮って合成する事によって、高感度ノイズを減らす手法です。
例えば4枚の写真を撮って1枚に合成すれば、2段分画質を向上させる事ができます。
そんな訳で、明るい所ではISO25で画質を2段向上させ、暗所ではマルチショットNRで2段分画質を向上させているという訳です。
レンズ
さて、今までは1画素の受光量から画質の良し悪しを見てきましたが、レンズにも秘密があります。
ご存知の様にスマホに使われているレンズは、全て単焦点レンズです。
それに対してフルサイズ機で良く使われるのは、撮影に便利なズームレンズです。
”高いズームレンズより、安い単焦点レンズ”と言われる様に、同じ明るさのレンズであれば、間違いなく単焦点レンズの方が光学性能は上です。
スマホは光学ズームが使えないというのが短所と言えるのですが、こと画質に関してはスマホのレンズ方が間違いなく性能は上なのです。
既に一部のスマホにおいては潜望鏡型(ペリスコープ型)の光学ズームレンズを採用している機種もあるのですが、それに対して複数の単焦点レンズと撮像素子を搭載しているのスマホは、画質優先に徹していると言えるかもしれません。
また同じ明るさの単焦点レンズでも、レンズ自体が小さくなるので、これも光学性能においてスマホの方が有利になります。
まとめ
それではまとめです。
スマホの画質が良いのは、画素数とISO感度を抑え、更に明るい単焦点レンズを常に絞り開放で撮っているからである。
また昨今では、マルチショットNRを使う事で、暗所における弱点も解消している。
といった感じでいかがでしょうか。
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