【写ルンです】を使いこなす方法

はじめに

今時でしたらスマホのカメラで何の不自由も感じないのですが、最近は若い方々にフィルムカメラが流行りの様です。

中でも一番良く見掛けるのは、”写ルンです”です。

写ルンです(シンプルエース)

これもシャッターボタンを押すだけでそれなりに写るのですが、その特性を詳しく知っておけば、もっと綺麗な写真が撮れるかもしれません。

そんな訳で、その方法を極めてマニアックな視点でご紹介したいと思います。

結論

お忙しい方のために、先に結論をお伝えしておきましょう。

写ルンですを使ってこのカメラにおける最高画質の写真を撮るには、曇り空の明るさで、人物の全身が写る大きさで、ストロボを発光して撮る事です。

その理由をこれからご説明します。

仕様

先ずは写ルンです(シンプルエース)の仕様を見ておきましょう。

フィルム ISO400 135フィルム
撮影枚数 27枚/39枚
レンズ f=32mm F=10 プラスチックレンズ1枚
シャッタースピード 1/140秒
撮影距離範囲 1m~無限遠
ファインダー 逆ガリレオ式プラスチックファインダー
フラッシュ 内蔵(有効撮影距離:1m~3m) パイロットランプ付スライド式フラッシュスイッチ
電池 単4形 1.5Vアルカリマンガン乾電池内蔵
寸法 W 108.0×H 54.0×D 34.0mm
重量 27枚撮:90g
39枚撮:93g

レンズは1枚で、焦点距離は32mm、絞りはF10の固定です。

シャッタースピードも1/140秒の固定で、ISO感度は400です。

広角32mm

レンズの焦点距離が32mmですので、スマホのカメラで一般的な28mmの画角より望遠気味です。

このためファインダーを覗くと意外に人物が大きく見えますので、普段より半歩下がって撮った方が無難です。

この話は後ほどもう少し詳しくお話しします。

またレンズはプラスチック製が1枚ですので、当然ながら解像度は一般的なカメラのレンズよりは劣ります。

但し用途はLサイズ程度のプリントですので、大伸ばしでもしない限り、特に問題はないという事です。

また特に反射防止用のコーティングもされていないので、(それが良いのかもしれませんが)1枚レンズながらフレアーやゴーストが華々しく出ます。

フィルムの特性

それでは次に、写ルンですのISO400のフィルム特性についてお伝えします。

ISO400のフィルムは、標準とも言えるISO100のフィルムに対して感度が4倍も上なので、暗い場所や暗いレンズを使ってもシャッタースピードを上げて撮れるというメリットがあります。

ただしその代償として、ISO100のフィルムより粒状性が劣り、やや軟調になる傾向があります。

この軟調になる傾向があるが故に、実はもう一つメリットがあるのです。

それは露出不良における許容範囲が広いという事です。

例えばISO100のフィルムですと、露出が適正露出から1.5段(1.5EV)程度外れると、下の様に黒潰れしたり、白飛びした写真になってしまいます。

ISO100のフィルムのラチチュード

ところがISO400のフィルムですと、下の様に多少露出が適正露出から外れても、何とか使える写真になるのです。

写ルンですが、ISO400のフィルムを使う理由は、(高感度だけでなく)こんな所にも理由があるという訳です。

適正露出

とは言え、適正露出で撮った方が一番画質が良いのは間違いありません。

例えば露出オーバーの場合は、フィルムの濃度が上がり印画紙焼き付け時の露光量を多くする事で明るさを適正にしても、写真の粒状感が悪くなりザラザラした感じになります。

一方露出アンダーの場合、フィルムの濃度は薄くなり印画紙焼き付け時に露光量を少なくして明るさを適正にしても、コントラストが低く締まりの無いノッペリした写真になります。

では、ISO400、絞りF10、シャッタースピード1/140秒における適正露出となる明るさはどれくらいなのでしょうか?

それを計算で求めると、EV12になります。

このEV12はどの位の明るさかと言えば、下の表にあります様に、雲り空の明るさなのです。

EV値 明るさの目安
EV16 真夏のビーチ
EV15 快晴
EV14 晴れ
EV13 薄日
EV12 曇り
EV11 雨曇り
EV10 陳列棚
EV9 明るい部屋
EV8 エレベータ
EV7 体育館
EV6 廊下
EV5 休憩室
EV4 暗い室内
EV3 観客席
EV2 映画館
EV1 日没後
EV0 薄明り
EV-1 深夜屋内
EV-2 月夜
EV-3 おぼろ月夜
EV-4 星空

EV値と照度の関係

すなわち写ルンですで撮る場合、曇り空の屋外で撮るのが一番画質が良いのです。

これより暗い場所ではストロボでカバーできるとしても、ストロボの光の届かない夜景撮影は止めた方が無難です。

一方真夏のビーチで撮ると、計算上4段(4EV)も露出オーバーになるのです。

そう聞くと何とかしたいと思いますよね。

快晴で撮る場合

これを防ぐには、レンズに入って来る光量を落とせば良いのですが、絞りもシャッタースピードも固定なのでそう簡単にはいきません。

そうなると手っ取り早い手は、サングラスをレンズの前に付ける手です。

この場合、サングラスのツルが邪魔になったり、サングラスのレンズ表面が汚れていたりと、難易度はかなり高くなるのですが、もし適正露出にこだわるのでしたら、挑戦してみる価値はあります。

ちなみに色味も変わる可能性があるのですが、これも印画紙に焼き付ける際に自動補正されますので、然程心配はいりません。

実際レンズの前に真っ赤なフィルターを付けても、

また、もしもっと気合を入れて光量を落としたいのでしたら、可変NDフィルターもしくはND8フィルターを購入して、撮影時にレンズの前に付けて撮る事です。

これでしたら、サングラスよりは間違いなく画質は良くなります。

また減光効果は少ない(1段程度)のですが、背景のコントラストを上げるPLフィルターもお勧めです。

遮光

次なる画質向上対策は、(これもかなり難易度が高いのですが)逆光時にフードを装着する事です。

とは言っても、そんなフードは売っていませんので、手のひらでレンズ表面に当たる直射日光を遮るのです。

それだけで、画質は明らかに向上します。

ただし手が写り込まない様に、注意が必要です。

フラッシュは常時発光

続いてはフラッシュです。

フラッシュは暗い時にだけ使うものと思われるかもしれませんが、そんな事はありません。

日中の撮影でも、どんどん使うべきです。

というより、これくらいの光量であれば特に弊害は無いので、常時使った方が良いと言いたいくらいです。

ではそれでどんな効果があるかと言えば、逆光時に人物が暗くなるのを防いでくれますし、瞳にキャッチライトが入りますし、さらに身に付けたアクセサリー類が光ってくれるのです。

日中シンクロの写真

上の写真を見て頂ければ、小さいですが瞳に小さな光の点が見て取れるのと、ピアスが光っているのを分かって頂けると思います。

ちなみに写ルンですのフラッシュのガイドナンバーは、GN10(ISO100)程度と一般的なコンパクトデジカメのフラッシュ(GN5前後)より4倍(2の二乗)も明るいので、昼間でもかなりの効果があります。

シャッタースピード

シャッタースピードについては、32mmの広角で1/140秒でしたら、手振れも被写体ブレも全く気にしないで良いでしょう。

ピント位置

最後は撮影距離です。

仕様書によれば1m~無限遠までピントが合う事になっていますが、それは錯乱円と呼ばれるこれくらいのボケならばピントが合っていると見なして良いだろうと割り切ったときの話で、正確にはピントがしっかり合う所があります。

それが何処かと言いますと、フジフィルムに訊いてみるしかないのですが、レンズの被写界深度から凡そ推測する事が可能です。

ピント位置3.53m(過焦点距離)

下は錯乱円の直径が一般的な0.029mmで、ピント位置をこのレンズの過焦点距離である3.53m(全身+余白大)にした場合の被写界深度です。

過焦点距離とは、無限遠まで被写界深度内に入る様にした場合のピント位置です。

この場合、無限遠までハッキリ写るものの、手前側は1.8mまでしか被写界深度内に入りません。

ピント位置3m

このためもう少し手間も被写界深度内に入る様にするために、ピント位置を3m(全身+余白)にした場合の被写界深度が以下になります。

焦点距離32mmのレンズでピント位置を距離3mにした場合の被写界深度

この場合、被写界深度は1.6m~19mになります。

ピント位置2m

そして下が、ピントが合う距離を2m(全身)にした場合の被写界深度です。

この場合、被写界深度は1.2m~4.5mになります。

写ルンですのピント位置

写ルンですのメイン用途が記念写真だとすると、背景もそこそこ写らないといけないでしょうから、ピント位置は恐らく3m前後ではないでしょうか。

もしそうだとすると、写ルンですで人物撮影を行う場合、一番ピントが合うのは距離3m前後の全身像のときで、被写界深度の前側端である距離1.4m(上半身)より更に被写体に近付くと、多少ピンとが甘くなると言えます。

特に顔のアップ(距離0.5m)には、全く向いていないと言えます。

まとめ

それではまとめです

  1. 写ルンですは、曇り空の屋外で一番画質が良くなる。
  2. このため、ISO400の高感度でラチチュードの広いフィルムが使われているが、快晴時には最大で4段程度露出オーバーになる。
  3. このため、快晴時には光量を抑えるNDフィルターやコントラストを上げるPLフィルターを使うと画質が向上する。
  4. また逆光撮影時は、手などによってレンズに当たる直射日光を遮ると、よりクリアな画像になる。
  5. フラッシュは逆光時に人物が暗くなるのを防ぎ、瞳のキャッチライトやアクセサリーを光らせるので、常時発光するのがお勧めである。
  6. 写ルンですのピント固定位置は3m前後と思われるため、全身像を撮ったときが最もピントが合う。
  7. このため上半身の撮影より近接の撮影は、避けた方が無難である。

もっと一言にまとめれば、

写ルンですを使ってベストの写真を撮る最高の条件は、曇り空の明るさで、人物の全身が写る大きさで、ストロボを発光して撮る

という事です。

ここまで分かってくると、ISO100のフィルムの入ったモデルや、2段程度の絞りがあるモデルがあればと思ってしまうのですが、さすがにそれは無理な相談です。

what’s next

そうなるともし写ルンですの画質に満足できなければ、次は中古のコンパクトカメラにフィルムを入れて撮るのが、一番現実的かもしれません。

余計なお世話ですが、弊サイト一押しのコンパクトカメラは、同じくフジフィルムのTiaraです。

フジフィルムのTiara

フィルムカメラの末期、最後の人花を咲かそうと各社からプレミアムコンパクトカメラが続々と登場したのですが、その中でも本機の画質はピカ一でした。(詳細はこちら

そう言えば、ペンタックスがコンパクトフィルムカメラを開発すると言っていましたので、どんなカメラが登場するか楽しみにしたいと思います。(詳細はこちら

コメントを残す コメントをキャンセル

モバイルバージョンを終了